シルバーシート
数年前に中欧を旅した時のこと。オーストリアの首都ウイーンにも立派な路面電車が走っている。市民の足として使われていることから、乗客も少なくない。一度は乗ってみたいと思い、車窓から異国情緒たっぷりの風景を楽しんでいたところ、途中から一人の老人が乗り込んできた。この電車にも「シルバーシート」が設けられ、日本と同じように色分けされ一目でわかるようになっていた。シルバーシートに一人の若者が座っているのを見たこの老人は、「ここは老人席で若者の席ではない」と公然と注意すると、若者は即座に席を立ち譲った。この光景を真のあたりに見た私は、当たり前のことが当たり前に行われるこの国の道徳心の高さに感動したものだ。
一方日本では老人が遠慮し、もし注意でもしたら何をされるかわからない恐怖心もあって、シルバーシートが若者に占有されているのを目にする。また、小学校低学年の子供を大手を振って座らせる両親もいるが、これも問題だ。
実はシルバシートに座れるのは、「老人」「身体不自由者」「妊婦」など限られた人だと注意書きで示されいて、健康な若者にはもともと座れる権利などないのである。
若者もやがては老人になり、その時はじめて老人の気持ちがわかるようになるかもしれないが、それでは遅いのである。